照明といえば空間を明るく照らすのが当たり前と考える方がほとんどだと思います。
日本の住宅で主流の照明といえばダウンライト中心の照明計画で、少しお洒落な住まいだとダイニングテーブルの上やキッチンカウンターの上にペンダントライトを使ったりされるでしょう。
住宅設計者の多くは平面詳細図に照明プランを追記したり、照明メーカーがプランニングしたりしますが、展開図に照明が描かれることはほとんどないのではないでしょうか。
天井に無数のダウンライトたくさんあるのは、実は日本の住宅特有のものです。
欧米の住宅では天井の照明だけで部屋全体を明るく照らすといった考え方は一般的ではありません。建築当初から建物に付いているのはブラケットライトだけしかなかったりすることも少なくなく、そこにフロアランプやテーブルランプ、ペンダントラントなどの照明を複数配置することの方が普通です。
日本でも外資系のホテルを始めとする、ラグジュアリー系ホテルの照明はそのようなものが多いはずです。部屋全体が明るいというより必要な場所に必要な灯りが配置されている、いわば”適光適所”な照明計画です。
日本でもいわゆる高級住宅を手掛けるようなハウスメーカーや設計事務所では見かけることはありますが、普通の住宅では提案すらないのが当たり前なので知らない人が多いのは仕方がないのかも知れません。
近年だとスターバックスコーヒーの店舗でそのようなライティングを体験することが出来るのですが、案外気にしてない人が多いのと、そもそも家の照明は「明るければ明るいほどに良い」という考えの方がほとんどなので提案する側も二の足を踏むのも当然かも知れません。
日本では長い間、照明はできる限り数は少なく(=コストが安い)なるだけ明るく(=高効率)といったものが良しとされて、住まいもオフィスや工場と同じように蛍光灯が持て囃されてきました。
豊かな灯りの文化を大切にするといった欧米の住まいに対して、ローコストで効率重視な日本の家づくりの中で最も影響を受けているのが「照明」と「日本人の灯り文化」であるといっても良いのかも知れません。
照明はとりあえず明るければ特に不満はないものです。
住まいにおいて雰囲気を大切にするといったことよりも、とりあえず明るければ良いと考える人が圧倒的に多いのですが、手元から最も遠い天井に配置した照明で照らすには、かなり明るい照明器具を選ぶ必要があります。そうすると必要以上に明るい照明を天井に配置することになるので、結果的に必要のない場所へも光が当たることになります。真っ白な壁や天井に反射した光が拡散した室内は、海外の人からすれば必要以上に明るいものに感じるのではないでしょうか。
想像してみて下さい、前述のスターバックスコーヒーの店内が白い壁や無数のダウンライトであったらどうでしょうか。住まいの照明にも”適光適所”という言葉があるように、多様性に富んだ灯りのある住まいは暮らしを豊かにしてくれます。そのような豊かな灯りのある空間というものは、けして天井からの光だけではなし得ません。
ダイニングテーブルの上やソファーの横、キャビネットや棚の上など、それぞれ高さの違う場所へ配置された”適光適所”の灯り、見たいものや場所へ光があたり必要のない場所は暗闇へ消える。そんな「夜ならではの明暗を愉しむ暮らし」そうやって多様性に富んだ空間こそが人の感性を刺激し、本当の豊かさを享受できるのです。
昭和8年に雑誌『経済往来』に連載された谷崎潤一郎氏の『陰翳礼讃』は、欧米で発明された電球が日本でも普及していく中で日本古来の侘び寂びといった文化が失われていく様を案じたものですが、それから100年近くが経ち、今となっては北欧諸国を始めとする海外の方が遥かに豊かな灯りの文化を継承しているように感じます。
今は当時とは比べものにならないほどに物質的豊かさは満たされていますが、『陰翳礼讃』で谷崎氏が危惧したような心の豊かさは失われていったままのように思います。
豊かな灯りは特別な日の特別な場所のものではなく、日常にこそ必要なものであり、文化的価値のあるものです。そのことがひいては生活の質や人生そのものを本当に豊かなものへと変えてくれるはずです。
『心地よい灯りのある理想の暮らし』
照明から考える家づくりをコンセプトにした美しい灯りのある暮らしの提案。豊かな灯り文化と上質なインテリアデザインでお客様の理想の住まいをかたちにします。
〈IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors〉
熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16
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