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執筆者の写真ノグチユウイチロウ

スターバックスが居心地のいい理由

以前にもコラム( https://www.inthelightinteriors.com/post/episode_30 )でも書いていますが、空間における照明の果たす役割はとても大きなものです。


日差しがたくさん入る日中はそれほど必要性を感じることがなくても、昼間でも照明を必要とするような場所や夜の時間を過ごす場所における照明の役割は重要です。

それによって空間の印象が決まってしまうといっても過言ではありません。


単に明るく照らすだけなら大きなシーリングライトを部屋の中央に配置すれば良いし、あとは照明器具を選ぶだけ。今どきはシーリングライトは流行らないので、ダウンライトを天井に埋め込むだけでOKです。


一般には照明は単に室内を明るく照らす道具でしかないので、そのような空間が多くなるのは仕方がないのですが、そこに心地よさのような数値化できない快適性や感性は存在しません。


多くのオフィスや工場、病院、コンビニなどでは機能的条件さえ満たしていれば良いので、それらの空間で心地良さを実感することは少ないと思います。


「照明は室内を明るくする道具であり、照明計画とはその道具をどのように配置するかを考えることである。」乱暴な言い方をすればそのようなことですが、そこには室内を明るくする機能だけ満たすものから芸術的感性を持ったものまでかなり幅があるものです。


室内を明るく照らすといった機能だけであれば、照明の果たす役割はそれほど重要ではなかったと思いますが、実際には空間の雰囲気や心地良さといった目に見えないものを生み出すのに重要な役割を担っているのが「灯り=照明」です。そして、その照明によって空間をデザインすることこそが”照明デザイン”の本質なのです。


そして空間デザインと照明デザインは一体であり、これまでの建築・空間デザインが先行してプランニングされるスキームにおいては、優れた照明デザインは成し得ないということもいえるのです。


近年ではオフィスの快適性が企業の人気や生産効率に影響を及ぼしたり、スターバックスやサードウェーブコーヒーのような空間の心地良さにまで拘るショップが増えています。そのような付加価値を高めることでブランディングや客単価の向上を図る企業が増えつつあるのは、モノが溢れる時代の新しい価値観だといえるでしょう。


私がよく照明の話をするときにスターバックスを例に挙げるのですが、単にコーヒーを飲むだけならコンビニの方が安くて便利です。しかし、スターバックスに行く人々は単にコーヒーを飲むだけでなく、店舗の雰囲気やそこでの体験も含めてスターバックス自体に価値を感じているはずです。


一般にはスタバといえば何となくお洒落なイメージ程度と思われがちですが、スターバックスの登場は店舗の外観・エントランス・内装といったハード面を始め、流れている音楽やコーヒーの香り、そこで働く人々の印象など、さまざまな面でコーヒーショップのイメージを変えました。


たかが一杯のコーヒーを飲むだけですが、スターバックスでは店舗に入った瞬間からその特別なエクスペリエンスが始まるのです。


スターバックスの店内は昼間でも少し薄暗いほどです。

コンビニのように昼夜変わらない光が天井から燦々と降り注ぐことはありません。店内の壁を見てみると白い壁を使った店舗はあまり見受けられません。

天井のダウンライトやスポットライトも一般の店舗より数が少なく、ダウンライトはよく見ると光源が見えにくいグレアレスタイプのものが使われていたりもします。


他にもカウンターやテーブルに低く設置されたペンダントライトも重要です。シンプルでモダンな空間のアクセントとなるペンダントライト。その造形フォルムもさることながらカウンターやテーブル上をスポット的に照らすことで、空間にメリハリと特別感を演出する効果があります。


そのような心地よい空間演出には、壁や天井に柔らかな光をあててくれる間接照明は欠かせません。器具の存在を感じさせず、そこはかとない光で空間に視覚的な明るさと居心地のよさを作り出してくれます。


天井から降り注ぐダウンライトやスポットライト、同じく天井から吊り下がるペンダントライト。壁に設けられたブラケットライトに、天井や壁に光を反射させる間接照明。但し、これらのたくさんの種類の照明を安易に追加していくと、結果的に室内が光で包まれてしまい煌々とした明るい空間になってしまいます。


照明を組み合わせる際にもっとも大切なのは、光の引き算です。

照明は必要な場所へ必要な光を届けることが大切で、必要のない場所へはあえて光が当たらないようにするのが上手な照明の使い方。


「誕生日のケーキに立てる蝋燭の灯り」、「プロポーズの時に選ぶ夜景の綺麗なレストラン」、「ラグジュアリーなホテルで過ごす至福のひととき」、「一人でゆっくりとお酒を嗜むバーでの時間」、私たちがそのような場面で想像するのは”何となく心地のよい灯り”のある場面だと思います。


それは決して派手で煌びやかな照明ではなく、”そこはかとない心地よい灯り”のはずです。

照明とはまさにそのような”そこはかとない存在”であり、照明デザインとはその”目に見えない空気”を作り出すことに他なりません。


スターバックスの照明はそのような”そこはかとない灯り”に包まれているからこそ、他の店舗とは違った穏やかで心地よい空気が流れているのだと思います。


店内のレイアウトも大きなテーブルからカウンターまで、大小様々なテーブル席があり、ソファーにラウンジチェアと座面の高さもそれぞれです。一見すると効率的とはいえないような配置ですが、それぞれの人が好みの席で自由に時間を過ごすことが出来ます。長居することを拒絶するようなことも、隣人に気を使うような居心地の悪さもありません。まさに機能や効率よりも居心地のよさの方が大切といわんばかりです。


そのように様々な工夫が凝らされたスターバックスの店内だからこそ、ただのコーヒーを一杯飲むだけなのにそれさえも特別なものに感じるのだと思います。


つまり、スターバックスは単にコーヒーを提供するだけのお店ではなく、コーヒーを通じて体験や文化を提供しているであって、そこに価値を感じているからこそ、コンビニのように便利でも安くもないけれども、あえてスターバックスへ通うのです。


 

『居心地のよい灯りと暮らす』


照明から考える住まいづくりをコンセプトにした暮らしの提案。豊かな灯りと上質なインテリアデザインで一人一人の個性に合わせた理想の住まいをかたちにします。


IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16








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