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執筆者の写真ノグチユウイチロウ

流行の先にあるもの

更新日:2022年11月20日

 日本ほど流行に敏感な国は他にないのかも知れません。欧米人と比較してみると、如何に日本人が流行に敏感であるかということがそのファッションや文化、国民性から窺い知れます。


 ルイ・ヴィトンは世界的に有名なブランドですが、欧米でこのようなブランドがごく一部の富裕層向けなのに対して、過去にはルイ・ヴィトンの売上の60%近くが日本人だったというデータもあるほど日本人はブランドものが大好きです。

 ファッションブランドは自らの存在意義のために新しい流行を常に提案し続ける故に、以前のものはそれと同時に流行遅れとなり、多くのファッション・ビィクテム(流行の犠牲者)を生み出すことになります。

 欧米人がトレンドよりも自分らしくあるために着たい服を選ぶのに対し、日本の場合は同調圧力が強い文化がファッションにも表れていて、「自分が好きな服」より「大勢の人が良いと思っている服」を選ぶ傾向が強く、欧米よりも流行が生まれやすい環境にあるといえるでしょう。


 ブランド志向の強い日本ではファッション産業以外でも同じような傾向があり、自動車においても欧米では購入から10年以上も乗り続けたり、修理しながら長く乗り続けることもそれほど珍しくないのに対し、日本では新車の買い替えサイクルが7年、中古車に至っては僅か5年が平均です。

 これは自動車メーカーのモデルチェンジが4年ごとに行われてきた慣習によるところも大きいと思いますが、先のファッションブランドと同様、自動車でも流行の影響が大きいことが分かります。


 ちなみに国内メーカーの部品保有年数は10年程で、新車登録から13年以上経過した自動車は税金も高くなっており、自動車産業の経済維持の為に、メーカー及び政府が買い替えをしなければいけない状況を半ば強制的に作り出しているともいえます。


 飲食は支出の中でも特に大きな比率を占め、消費財として最も短いサイクルのものです。人口当たりの飲食店の数は日本が世界で最も多く、エンゲル係数もイタリアに次いで僅差で2位です。

 ちなみに2020年の世界の政府債務残高の上位は、南米やアフリカなどの途上国が占める中で先進国では日本が3位でトップ、以下に4位ギリシャ、8位がイタリアです。

 2019年に農林水産省が発表した資料によると、日本国内の食品ロスは年間643万トンにものぼり、日本人の一人当たりの年間食品廃棄物量は世界で第6位、アジアではワースト1位という多さです。ちなみに1位はイギリスで、その他の上位も全て欧米の先進国です。


 日本では今、流行とは最も遠い位置にあるべき住宅に関してもファッション化が加速しています。欧米では住宅は資産としてみなされ、数十年が経過しても中古住宅としてそれなりの価格で流通していくのに対して、日本の住宅の多くは30年で資産価値は無くなります。このことは日本の住宅が資産ではなく、単に負債であることを意味しており、日本の住宅の場合は建て替えが前提のため、使われる建材も30年保てば良いといった考え方がベースとなります。


 間取りについても同様に、今では当たり前のLDKも一般に普及したのは90年代に入ってからです。ペニンシュラ型キッチンやアイランド型キッチンに至ってはごく最近のトレンドです。ウォークインクローゼットやシューズクローゼット、パントリーやランドリールームなども、30年以上前に建てられた住宅では殆ど見られることはなく、せいぜい外国人向けの住宅やマンション以外で見かけるくらいです。


 日本においては食事や衣服だけでなく、長期間に渡って使用されるべき住宅・家具・自動車といった耐久消費財においても消費文化の影響が大きく、それらによる経済的負担と損失は欧米と比較して相当に大きくものといえるでしょう。

 そのような経済を維持するために、私たちは日々家族で過ごす時間やプライベートの時間を犠牲にして仕事を優先しています。人々に政府へ望むことを聞くと、老若男女問わず多くの人が口を揃えて「景気回復」と言われますが、諸外国で政府に何よりも優先して景気回復を望む国民が果たしてどれほどいるのでしょうか。


 日本は世界3位の経済大国であり、先進国の中でも特に新しく便利なものに囲まれた国で物質的な豊かさは群を抜いています。

 日本人の所得は欧米と比べて決して低いわけでなく、家賃や物価が特別に高いわけでもありません。治安もよく医療や教育も充実していますが、日本の幸福度ランキングでは56位と先進国の中ではかなり下位の方です。


 中国の思想家・老子の「足るを知る者は富む」という言葉がありますが、「身分相応の満足を知ることが幸せである」という意味です。

 人の欲求には際限がなく「もっと欲しい」という気持ちが芽生えてしまうものです。そのように欲を出そうとすると、日々の生活に満足できないばかりか身を滅ぼしてしまうことになりかねません。


 日本は他国と比べてファッションの市場規模やブランド・衣料品店の数も相当に多く、日本国内だけでも毎年29億着の洋服が販売され、その内の15億着が売れ残り、ブランド価値維持のために多くが廃棄処分されているそうです。

 商品原価の中に販売機会損失を防ぐための過剰生産に伴う廃棄ロスや、セール販売における利益率などの費用も含まれており、本来の商品価値以上の価格が設定されることに繋がります。そのことが更なる販売不振へ繋がり、プロパー消化率の低下、セールやアウトレットなど増加といった状況を生んでいます。


 単純に見れば安く買えるようになっているように思えるかも知れませんが、長期的にはファッション業界のデフレ化が国内ファッション産業の空洞化を生み出し、しだいに品質の低下やデザインのコピーが横行するようになり、商品力自体も弱まっていきます。いつの時代も「大量生産・大量消費」の先にあるのは粗悪なものの流行です。

 このようなファッション業界の現状は、現代社会における日本の消費文化の未来を暗示ているようにも思います。


 私たちが本当に必要としているのは「安かろう悪かろう」のものではなく、良質なものを適正な価格で入手できる環境でしょうし、「良質なデザインやモノづくり」が育まれるような文化なのです。




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