前回の『クオリティ・オブ・ライツ(Quality of Lights)』では人の持つサーカティアンリズムの大切さについて触れましたが、これまで室内の照明は明るい方が良いと多くの人が思っているはずですが、必ずしもそうではないのだということを提唱させていただきました。照明デザインに携わる人たちの中ではサーカティアンリズムは基本中の基本とも言えるものですが、一般には照明デザインそのものの認知がほとんどないため、多くの人がそのことを知らないのは仕方のないことだと思います。だからこそ、私はこのコラムを通じて情報を配信していく意味があるのだと考え、無名の私のコラムなどいつ誰が読んでくれるか分からないにも関わらずずっと続けているのです。
最近の住宅の照明プランを見ていると照明器具の数がとても多いように思います。照明メーカーが作るプランから垣間見えるのは、とにかく明るい方が良いというクライアントの基本的な要望に応えた結果です。多くの人はマイホームを建てるまでは実家や賃貸に住んでいて、そこには”一室一灯”でシーリングライトがついていることがほとんどでしょう。提案する側もそのような家に住んでいることが多く、それ以外を知らないということが一番大きな原因です。
以前、米国で少しだけ暮らしていた時に、日本のような明るい室内ではない家に住んでいました。部屋には入り口にブラケットライト一つだけ、あとはフロアランプをソファーの横に置いたりして、全体的にはそれほど明るくはありませんでしたが、特に不自由でもなく、落ち着いた雰囲気で居心地は良かったように思います。ダイニングにはシャンデリアのようなものが天井から下がっていたと記憶しています。当時は照明のことには興味はありませんでしたが、その時の経験が今になって生きているように思います。
欧米人の伴侶を持つ家庭や海外に住んでいる日本人の方からも、日本の住まいは明るすぎて落ち着かないという話をよく聞きます。欧米の人々にとって住まいは仕事を終えて、家族でリラックスしてゆっくりとした時間を過ごす場所。日本人とは住まいや家族に対する考え方が少し違うように感じます。
それでは、そのような夜にリラックスして過ごすのに適した照明というのはどのようなものでしょう。
まずはサーカティアンリズムをベースに考えると、天井からサンサンと降り注ぐ太陽の光のような照明ではなく、焚き火のように地面に近いところにある光の方が自然ではないでしょうか。そうなると天井からのダウンライトではなく、フロアライトやブラケットライト、テーブルランプといった照明器具の方が夜の空間には合っていると言えます。
また、色温度も蛍光灯のような5000K以上の白っぽい光よりも、2800Kくらいのオレンジ色の電球色の方が自然界の夜に近く、落ち着いた雰囲気と人の脳や体をリラックスさせる効果もあります。色温度に関しては最近では温白色(3000K)といって、電球色よりもやや白っぽいLEDダウンライトが増えつつあります。これも電球色のダウンライトが暗いというクライアントのクレームを受けてのことかと思われますが、個人的には一軒の家の中で複数の色温度が混じることはオススメしないので、かえってストレスになるのではないかと思っています。色が混じることで同じ空間で色が違って見えることは違和感を感じやすく、昼白色(5000K)のキッチンライトの下で調理した後に、電球色の照明に照らされたダイニングテーブルに移動すると暗く感じやすくなるようなものです。私はこういった場合を考慮して、家の中は割り切って全部電球色で揃えるようにします。あとは手元の照度(明るさ)を勘案しながら、家全体にバランスよく配置するようにしています。
玄関やトイレのように比較的狭い空間では照度は控えめに、廊下のように通るだけの場所は玄関やトイレよりもさらに暗く、反対に居室はそれらよりも明るめに。家の中に入って居室に行くまでをバランスよく配置することで、全部が明るくなくても程よい明るさを作ることができると思います。これをダウンライトだけでやろうとすると手元の明るさが足りずに暗くなりがちですが、タスクライトなどを上手く使うことで、これまで以上に見やすく、かつ居心地のいい空間を作ることが出来るのです。手元を光がしっかり照らしてくれれば、電球色だから見づらいということも特に感じないはずです。天井からのダウンライトで部屋中を明るく照らすよりも近くに照明がある方が遥かに見やすいし、そこまで強い光でなくても十分に明るいのでグレア(眩しさ)も軽減されて、電球色のリラックス効果も合わさり、慣れるとこちらの方が居心地がいいのではないでしょうか。
何かと暗いとか色が分からないという理由で敬遠させがちな電球色の照明ですが、本当はこちらの方が人の生態に合っていて自然なんだということを知ってもらいたいのです。その上で好きな色を選ぶのが良いかと思います。照明はただ明るい暗いだけでなく、色温度を始め、器具のフォルムや用途に応じて、さまざまな選択肢があり、住宅がこれまでのシーリングライトを使った”一室一灯”から”一室多灯”へ移行する中で、その専門性が改めて問われる分野かも知れません。だからこそ私たちのような照明に特化した仕事が必要になるのだと思います。
LIVING WITH LIGHTS | 美しい灯りと暮らす
IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors
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