top of page
執筆者の写真ノグチユウイチロウ

ありあまる富

更新日:2021年5月16日

「陰翳礼讃」「適光適所」「多灯分散」... 照明デザインを学ぶと必ず出てくる言葉。

照明デザインとは一般にも業界的にもまだまだ馴染みのない分野です。


住宅の照明計画といえば、ついこの前までは部屋の中央にシーリングライトが一灯あれば十分、気が利いたリビングでは中央にシャンデリア、その四隅にダウンライトといった感じでした。


シーリングライトからダウンライトへ移りゆく過程の現在ですが、夢のマイホームを購入して住み始めた方々から、「なんとなく部屋が暗い」という声がよく聞かれます。


これまでシーリングライトによる、”部屋の中心に一つの照明で全体を照らす”、いわゆる「一室一灯」が当たり前だったのですが、ここ数年はシーリングライトが減り、替わりに複数のダウンライトを配置するプランが主流になっています。


しかし、冒頭に上げたような、「陰翳礼讃」「適光適所」「多灯分散」といった照明デザインについての基本的な考え方や知見が少ないこともあり、現状はシーリングライトからダウンライトに置き換わっただけで、基本的な照明の考え方は「一室一灯」のままなのです。


シーリングライトは大きな円盤から全体に拡散される光によって、部屋全体を明るくしますが、ダウンライトは基本的に真下に向かって光を放ちます。


本来はそれぞれ違う性質や目的の照明なのですが、そんなことより見た目のスッキリ感だけが優先され、「一室一灯」「多灯分散」といった基本的な照明デザインの考え方はおざなりになったままです。


それゆえ、本来とは違う使い方をされているアンバランスな照明計画が、そこに住み始めて「なんとなく暗い」といった印象を与えてしまうのです。


そういったユーザーの「もっと光を!」という声に応えるかのように、わずか8畳のスペースに8個ものダウンライトが配置されていたり、明るすぎたら消せば良いとか、調光器を使って調整したら良いといった提案も増えています。


衣服で例える、真夏に冷房でギンギンに冷やした部屋で防寒着を着て、暑ければ脱げば良いをいっているようなものです。


また、天井面に取り付けた照明の光も、手元で必要な明るさを確保するために、実際に必要な照度よりもはるかに高い照度の照明が設置されています。


これまでの白い壁や白い天井、明るい床に囲まれた真っ白な空間は、天井に設けられた最小限の光を最大化し、効率を優先した暮らしには最適です。

しかし、そのようなある意味ではオフィスや工場のように、生産性に重きを置いた住まいが人間的であるかといえば、対局にあるように思います。


蛍光灯の明るい光を昼夜問わず、寝る直前まで浴び続けることは、人にとってストレスでしかありません。


家づくりもどんどん良くなっているはずが、複雑になりすぎた結果、かえってアンバランスなことも多かったりもします。


テクノロジーの進化は私たちに便利を与えてくれていますが、反面、直接会って話をする機会も減り、家族間ですら各自の個室に篭り、直接顔を合わせずにSNSで済ませることも...


いつでも好きな時に好きな情報を得られるようになった反面で、過度な情報を浴びることで余計なストレスを感じたり、不必要な情報を得るために時間を費やし、家族とのコミュニケーションが蔑ろになったり....


「何を持っている」とか、「どんな設備がついている」とか、「広くて大きい家が良い」とか、そんな何もかも揃った家よりも、小さくて何もなくても、家族が仲良く幸せに暮らせる家の方が、何倍も素敵だし、大切だと思うのは私だけではないと思います。


そのような家庭には、高価なシャンデリアがある煌々とした明るい空間よりも、蝋燭のほのかな灯りの方が似合うのではないでしょうか。


照明デザインとは、照明計画や空間デザインを通じて、住まい手の暮らしをより快適にするためのものです。


「あかりはその人の権威の象徴ではなく、貧富にかかわらず感性の証であり、暮らしに質を与え、いかなる世界も光で満たすのです。」


彫刻家 イサム・ノグチの言葉にもあるように、灯りはただそこにあるだけで、人々を魅了します。


照明デザインの本質とは、私たちの暮らしの所作を一つ一つ丁寧に紐解き、住まいに美しい灯りと情景を生み出し、くつろぎや癒しのひとときと共に、これまでになかった新しい価値や経験を人々にもたらしてくれることに他なりません。


それらは決して、造形美やステータスといった表面的なモノの価値ではなく、まして便利で快適をいった機能性でもありません。


『灯り』そのものには形がなく、壁などのモノに光があたって、はじめて人の目に認識されるものです。


素晴らしい照明デザインは、その目に見えない『灯り』をデザインし、私たちに暮らしの質や人生の喜びといった「普遍的な価値観=本当豊かさ」の意味を教えてくれるはずです。




 

『灯りを愉しむ』をテーマにした、”照明から始める家づくり”というこれまでになかった発想で、美しく、心地のよい暮らしのご提案をいたします。

熊本・福岡を中心に照明、家具を含むインテリアの設計・施工から、戸建・マンションのリフォーム・リノベーションまで幅広くを承っておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

《IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors》

〒861-8001 熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16

https://www.inthelightinteriors.com/





閲覧数:292回

最新記事

すべて表示

陰翳礼讃

Kommentare


bottom of page