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執筆者の写真Yuichiro Noguchi

ジョージ・ネルソン〈CSS〉復刻計画

更新日:2021年4月10日

当ショールームに設置してある大きなウォールユニットは、1957年にジョージ・ネルソンが考案し、1959〜73年の間に米・ハーマンミラー社によって製造・販売されていた『Comprehensive Storage System』(通称:CSS)です。

据置型の家具が一般的だった当時、木製の棚板とキャビネットなどの様々なパーツをアルミ製の支柱に組み合わせることが出来る〈CSS〉は、とても画期的な収納システムでした。73年には生産終了となった後、これまでに一度も復刻されていない貴重なアイテムのひとつです。私がこのシステムに興味を持ったのはデザイン性の高さに加えて、様々なパーツを組み合わせることが出来る拡張性の高さです。


現在の住宅に多く使われている可動棚は、便利ですが見た目の問題でウォークインクローゼットなどの目立たない場所が多く、リビングやキッチンなどには造作棚など違うキャビネットが使われます。それぞれが専用設計になっているので、ライフスタイルの変化によって合わなくなりがちで、リフォームと共に廃棄されるのを幾度も見てきました。


〈CSS〉はその拡張性の高さからリビングに限らず、様々な用途で使用することができ、その時々のライフスタイルに合わせた組み替えが可能です。オリジナルの〈CSS〉にはありませんが、新たにビルトインの最新キッチン家電を組み込むことも不可能ではありません。

そのような収納システムでありながら、建物本体との固定箇所はとても少なく、容易に分解して再設置も出来る非常に優れものです。


しかし、何よりも素晴らしいのはこれだけの拡張性と機能性を持っておきながら、時代を超えても尚も色褪せないそのデザインにあります。ミッドセンチュリー期に生み出された多くの家具に共通していることですが、当時の家具は機能とデザインがとても高いレベルで成立しています。それが故に70年近くが経った現在もその多くが製造され、世界中のデザイナーや著名人を魅了し、多くの人に愛用されています。

そのようなミッドセンチュリー期の家具の中でも、一部のマニアにしか手が届かない存在だった〈CSS〉ですが、最も重要なのは希少価値ではなく、そのサスティナビリティです。


世界中で多くの家具が製造・販売され続けていますが、時代と共にスクラップ&ビルドを繰り返しています。おそらく世の中の家具の多くは、親から子へ受け継がれていくことなく廃棄されているものと思います。廃棄されなくてもリサイクルショップへ二束三文で買い叩かれ、最後にはゴミとして捨てられる運命です。それが故に堅牢である必要もなく、デザイン自体どこかのコピーであることも少なくありません。かつて物資が不足していた時代に、良質なものを大量に手頃な価格で届けるはずだったものが、供給過多になった途端に、低価格で劣悪ものが生産され溢れるようになりました。その現状ははるか昔、19世紀のイギリスで起こったアーツ&クラフツ運動以前にも通じるものです。


しかし、現在の私たちがこれから考えていかなければいけない大きな課題は、持続可能な社会づくりに他なりません。先進国といわれる国の人々の一部は豊かになったのかも知れませんが、その反面で途上国を始め、様々な場面や人々の貧富の差は開く一方です。地球上にある資源は一部の人だけのものではありません。私たちに必要なのは限られた資源を有効に使いながら、世界中の人々とシェアしていくことだと思います。


今回、ショールームに〈CSS〉を設置したのも単なるレトロ主義ではなく、実はこれからの時代に相応しい家具だと思ったからです。1940年代にジョージ・ネルソンが将来は据置型の替わりになるものとして考案した収納システムですが、その可変性と優れたデザインは今だに人々を魅了します。素晴らしいデザインのものは時代を超えて生き続けることが出来るし、人から人へと受け継がれて行くべきだと思います。

実は私が本当に復刻させたかったのは〈CSS〉という家具でよりも、その概念であり、ライフスタイルそのものの提案だったのです。




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George Nelson CSS



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