一般的にデザインというと造形で表現することかと思いますが、美術・芸術以外の分野では常にデザインと機能の両立が求められます。機能的でデザインも美しいものもあれば、機能は良いけどデザインがイマイチなもの...昔から世の中にはさまざまなデザインのもので溢れています。
90年代半ばのいわゆるIT革命(情報革命)によって、PCとインターネットが普及、誰でも簡単にデザインをすることができるようになりました。それにともない様々な時代のデザインの引用や濫用、デザイン自体の賞味期限も急速に短くなり、今やデザインの大量消費・大量廃棄時代だといっても過言ではありません。
デザインの歴史を遡ると、12世紀のゴシック様式に代表される様式・装飾文化があります。当時は使う人の身分や権力を象徴するものとして、貴族や富裕な身分の人々の嗜好品でした。18世紀の産業革命による経済発展によって、豊かさの象徴としての装飾文化が黄金期を迎えますが、19世紀になると商業主義による大量生産によって粗悪な商品があふれるようになり、19世紀後半にはウィリアム・モリスによって「古き良き時代の熟練職人による質の高い工芸品」に回帰しようと、アーツ&クラフツ運動が起こります。
しかし、モリスが重点を置いた「伝統的な職人芸を見直し、芸術的な手仕事による美しい日用品や生活空間をデザインし供給することで、人々の生活の質を向上させる」といった価値観は、入念な作業によってしか生み出されないことから、一部の社会上層の人々にしか受け入れられないという矛盾をはらんでいたため、アーツ&クラフツ運動は大衆に広まるには至りませんでした。
それでも生活と芸術を一致させようとしたアーツ&クラフツの思想や活動は各国に広がり、フランスのアール・ヌーヴォーや、ドイツのユーゲント・シュティールにも影響を与え、アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデが、モダンデザインの教育機関であるバウハウスの前身となったヴァイマールの美術工芸学校を設立するなど、20世紀のモダンデザインの源流にもなったといわれています。
バウハウスは建築家ウォルター・グロピウスによって、1919年にワイマールで設立されます。バウハウスのスタイルは、近代的なデザイン、モダニストの建築と芸術、デザインと建築教育における最も影響力のある流れの一つとなり、合理主義・機能主義といった思想と大量生産の時代に合ったデザインは、いまだに美術、建築、グラフィックデザイン、インテリアデザイン、インダストリアルデザイン、タイポグラフィーに影響を与え続けています。
以上、大まかにデザインの歴史を書き綴ったのですが、今の主流のデザインの根底には大量生産時代の思想があります。冒頭で述べたテクノロジーの発達によるデザインの陳腐化は、大量生産時代から100年続いたモダニズムの歴史の末路を感じさせる事案の一つかと思いますが、それは初期のデザインが思想を元に創造されるのに対して、その後のデザインは単に造形のコピー&ペーストとなってしまうからでしょう。
近年では人口減少やそれに伴う経済成長の鈍化、大量生産・大量廃棄から持続可能な社会への変換など、これまでの社会とは世の中が大きく変わろうとしています。
最近では「民藝」という文字を目にする機会が増えたきた気がします。同様にサスティナブル、バイオフィリックなどもそうですが、こういった一連の言葉にはかつての産業革命後に起こったアーツ&クラフツ運動のように、人々が本来の人間らしさを取り戻そうとしているかのようにも見えます。
機能主義・合理主義によるモダニズム思想は、当初の「良質な日用品や生活空間をデザインし供給することで、人々の生活の質を向上させる」といった使命から、単に「機械的で規格化されたものを低コストで大量に生産する」という、もはや人間らしさとはかけ離れたものとなったような印象があります。歴史を振り返るとデザインの陳腐化と新しい思想の始まりは、常に表裏一体なのかも知れません。
大量生産時代のモダニズム思想によるデザインは、そろそろ役割を終えて新しいデザインが必要とされ始めているのではないでしょうか。
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