私が照明デザインを始めたのは、知人の住宅会社の照明計画を任されたことがきっかけでした。住宅の照明プランというと、設計士が書いた建築図面を元に照明メーカーの担当者から提案されるのが一般的ですが、そこの住宅会社では電気図面と一緒に私が基本の照明プランまで提案していました。
当初はダウンライト中心の照明プランを提案していたのですが、次第にもっと個性的な照明のあり方を模索するようになっていた矢先、旅館のリノベーションをすることになりました。その旅館は全室が個室露天風呂付きの離れになっていたこともあり、全14部屋をそれぞれ内装を違うデザインでやることになったのです。
当然、照明プランも部屋ごとに変わってくるのですが、ダウンライトや間接照明だけではあまり変わり映えせず、せっかくの部屋ごとに違う内装なのに照明は画一的になりがちでした。そこでそれまで住宅ではあまり提案してこなかったペンダントライトやブラケットライト、スタンドライトなど照明器具自体が主張するようなものを取り入れたところ、部屋ごとのコンセプトがより明確になりました。
これが私が照明デザインを意識するようになったきっかけです。
私はこれをきっかけに住宅の照明プランにおいても、その家の個性を主張するような照明を考えるようになりましたが、現在の住宅の照明においては器具の存在感は無いほどに良いといった考えが主流。しかしながら、先の旅館の例でもあるように建物を構成する要素が少なくなればなるほどに、個性もなくなっていくものです。ユニクロや無印良品のような洋服のように、住宅も画一的な住まいばかりでは面白みがないのではないでしょうか。
ホテルや旅館に泊まった際に、印象に残っているところは決まって雰囲気の良い照明計画が施されています。そこでは決して特別な照明器具が使われているのではなく、天井から煌々と照らされるような空間ではない上質な灯りがあります。
住宅においても同様で、これまでのように煌々と明るい空間ではなく、灯りを楽しめるような空間づくりをするだけでも、日常が少し豊かになったような気がすると思います。
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